ロースターズレポートⅠ_焙煎豆の評価法の検証~焙煎指数とL値の関係,Evaluation of roasted beans, relationship between L value and roast index.
コーヒーの焙煎度合いの評価について、重量変化による方法と色彩計による評価の関係を調べてみました。参考にどうぞ。
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概要
深煎りから浅煎りまでのコーヒー豆の焙煎度合の評価法について検討しました。
評価法は色彩計を用いた色による評価=L値測定と、焙煎前後の豆の重量変化を測定する手法(焙煎指数)があります。
焙煎指数は天秤のみで簡便に評価できるのでアマチュアにも広く用いられています。L値測定が業界標準ですが、両者の対応関係を定量的に評価して、焙煎指数による評価の妥当性を調べました。
浅煎りから深煎りまで広い範囲で焙煎度合いを変えた豆を、L値測定と焙煎指数による測定を行いました。
結果
焙煎指数による評価は十分に妥当で精度の高い評価手法であることがわかりました。
【背景】
コーヒーは焙煎度合いを変えることで風味が大きく変わります。 例えば同一品種の生豆でも焙煎度合いが深いほどコーヒー豆の色味は黒っぽく、抽出されたコーヒーは苦みの強い味になる。浅く焙煎すると、色味は薄く栗色で酸味や甘みが強調された味になりやすいです。 コーヒーの焙煎度合いの区分は曖昧なため、大規模生産の規模では数値による管理が行われて、色彩計を用いた色の測定で行われます。 色の測定とは、光を当てて反射光を測定分析することです。例えばコニカミノルタ製 携帯型色彩計 CR-410Cが有名です。 測定した色は定量値として、3つの数値(L*,a*,b*)に分解し、L*a*b*座標系と呼ばれる決まった色の指標にします。
数値(L*,a*,b*)のうち特にそのL*は一般にL値と呼ばれます。 物体の色は(a*,b*)であらわされ、L*は色の濃さ(明るさ)を表します。 例えば、純粋な黒、白、グレーいわゆるモノクロでは 色がないのでa*=b*=0となります。パラメーターはL*の値だけで物体の明るさを表します。 L*の値は黒では0、白では100、グレーではその間で50などです。 コーヒーは茶色なのでa*=b*=0ではないですが、色は濃いのでないも同然、a*、b*はともに小さくなります。なのでL*のみでも十分に指標にできます。 これがL値による管理です。
上記の測定は反射光を測定するので、測定物の形状が変わると測定値も変わります。 コーヒー豆の大きさ、形状、焙煎後に出てくる油の影響を受けるので粉砕して測定する必要があります。 測定精度を上げるには一定の粒度に粉砕しする必要があります。 機材も低価格ではないので小規模の個人経営の自家焙煎店で導入することは難しいです。
一方、コーヒー生豆の重さに対して焙煎度合いが深くなるほど、焙煎後の重量が減少することが経験的に知られています。 生豆は一般に12%程度の水分を含有して、焙煎することで水分の蒸発、加熱による化学反応で成分の一部が変化し蒸発します。 このため、焙煎度合いを評価する手法として焙煎前後のコーヒー豆の重量を測定して、その比率を指標とすることが行われています。 この手法は粉砕作業は不要で、天秤があれば容易に可能です。欠点としては、季節により環境の湿度の影響を受けやすいことです。 業界ではL値を用いて管理することが標準です。 どちらも相対値での管理なので、使いやすいほうを選べばよいのですが、重量変化による管理との対応関係をきちんと調べておく必要があります。 このため、各種焙煎度合いを変えた焙煎豆を用意して両方の方法で評価し、その妥当性を確認したので報告します。
【目的】
コーヒーの焙煎度合いの評価として重量変化による手法と色彩計によるL*値測定の対応関係を把握する。
【評価結果】
以上のようにして粉体にした各焙煎条件のコーヒーの色彩を測定した結果を図6に示します。グラフは横軸は可視光の波長(380-780nm)で縦軸は反射率を表します。このデータから色に関する各種の数値は計算されます。
グラフを見ると、高温の焙煎ほど反射率は小さくなり、210℃の焙煎ではほとんど反射しなく、黒っぽい目視とよく合っています。
表2に算出されたLabの結果を示します。図7には重量変化とLの関係、abの変化を示します。
140℃以上では、重量の変化とLは焙煎温度で大きく変化し、両者はよく対応していることがわかります。 同時に色味(ab*)も変化しますが、155℃を超えると原点近くに向かって変化しています。これはは色味が消失していく様子です。
各温度での焙煎状況から色味ではなく、1ハゼや2ハゼの状況から筆者が独自にローストレベルを同定した値を表2に示します。
Lの絶対値自体は、測定条件で変わってしまいますが、ハゼなどで想定したローストのほうが実態に即していると考えたためです。
表3には、参考とした文献の焙煎状況とローストレベル、L*の値を示します。
L*が小さい範囲では、筆者の測定と乖離は少ないですが、大きな値では乖離が大きいです。これは、測定条件が異なることに起因するものと思われます。特に色付きが浅い、低温での焙煎は吸収が小さく反射率が大きいため、粉体の充填密度や形状の影響を強く受けます。測定の際、粉体の充填密度が高く表面が平らになり、反射が強くなったためと推定されます。
以上の状況ですが、140℃以上では重量変化とL*の変化はよく対応しています。140℃以下では水分のも蒸発して重量が減少し、色の変化が起こってはいないと思われます。重要な170℃以降の対応関係を図8に示します。
この温度範囲は、焙煎時に1ハゼが始まり2ハゼが終了する範囲で、全日本コーヒー協会が提唱するシナモンローストからイタリアンローストに対応します。この範囲では重量変化はL*変化と相関がみられて、その妥当性が確認できました。
【考察】
以上から、重量変化についての注意事項が考察できます。
図8から、重量変化が0.01(1%)に対してとローストレベルがシティーローストからフルシティーローストへと1段階程度変化します。
従って、重量変化を利用する場合に用いる秤の精度についての要求値は以下の通り。
ローストレベルを一定にするには、重量変化は少なくとも±0.005(0.5%)の変化に抑える必要があるとします。 約0.5%の重量変動を管理する場合、実際に何グラムの管理が必要かは投入量に依存します。取り扱い重量と要求される秤の精度を表4に記載しました。
注文焙煎店などでは300g前後の取り扱いが多いです。この場合に用いる秤は0.3g以内の測定精度が必要になります。測定器メーカーの公証精度としては±0.1g程度の精度が必要となります。 あくまでも目安ですが、0.05g以内の精度の秤を使用することが望ましいと思われます。
【まとめ】
焙煎豆の焙煎度合い(ローストレベル)を評価する手法として焙煎前後の重量変化を測定する手法の妥当性を確認しました。
業界で標準の色彩計によるL*と重量変化との対応関係を求め両測定法はよく対応し、重量変化の手法も使用できることが分りました。そして、ローストレベルを一定にするには重量変化では±0.5%以内に収めればよいことが分かりました。300g程度の焙煎豆を扱うには、用いる秤の精度は±0.1gの精度のものが必要で、できれば0.05g以内の精度が欲しいところです。
【参考文献】 以下を参考にさせていただきました。
1)The study of coffee 堀口俊英 2020年新星出版社
2)もっと知りたいコーヒー学 広瀬 幸雄 2007年旭屋出版
以上、読んでいただきありがとうございました。
コーヒー焙煎を行う方々の参考になれば幸いです。
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