ロースターズレポートⅤ_コーヒー焙煎における生豆の大きさの影響①,The effect of green bean size on coffee roasting①

コーヒー焙煎における生豆の大きさの影響を調べてみました。参考にどうぞ。
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コーヒーの焙煎を安定に行い、さらに味の変化を狙い通りに制御するには焙煎プロセスの深い理解が必要になります。コーヒーの焙煎に関して多くの先人たちが研究しているので、参考になる文献も多いが未知の部分も多いです。特に焙煎プロセスは個々の焙煎機や環境により大きく異なります。装置や火力、環境温度により焙煎は大きく変動しやすいため、プロセスの理解には実際に使用している装置で各種の検討をする必要があります。

投入する生豆の量が同じで、同一の焙煎条件でも、生豆の種類が異なると温度上昇やハゼの温度が変わることがあります。

たとえば、エチオピアのナチュラルプロセスの豆はブラジル産やコロンビア産などに比べて粒が小さいです。このため、火の通りが早いなどといわれ、焙煎の火力などの条件を変えることがあります。
しかし、火の通りが早いとは具体的にどのようなことなのでしょうか?。実際に断面を切って確認したのでしょうか?

この点を確認するため、筆者がこれまでに蓄積した焙煎データから、豆の種類による焙煎プロセスの変化をまとめましたので報告します。

生豆が異なると焙煎プロセスがどのように変わるのか?
同一の焙煎条件で焙煎を行った過去のデータを整理して考察を行い、豆の大きさによる焙煎への影響を把握し、焙煎プロセスの理解につなげる。

・焙煎条件

参照した過去の焙煎データは、以下の条件で実施したデータを元にしています。

・焙煎機:富士ローヤル社 半熱風焙煎機 R101 LPガス
・焙煎条件:投入量250g, 投入温度 100℃, ガス圧1.0kPa(投入後60秒で着火),ダンパー開度5
・測定値:豆温度の測定は、上記の焙煎機に標準で装着されている熱電対の表示です。(図1)

焙煎ドラム内に熱電対があり、ドラム内の豆が熱電対に触れた温度を計測。

実測データ

1)生豆の大きさと温度上昇

・外観

図2に3種類の生豆の外観写真を示します。

20g中に含まれる豆の個数も合わせて記載し、数が小さいほど大きな豆といえます。
a)はインドネシア産のマンデリンで、大きな豆なので96個、b)はマラウイ共和国で、中くらいのサイズで124個、c)は小さな豆で169個と、最大1.7倍ほどの差があります。今回の事例は一部ですが、さらに大きな豆や小さなも存在します。

・加熱特性

上記3種の生豆を同一条件で焙煎したときの豆温度の時間プロファイルを図3に示します。条件は投入量250g、投入温度100℃、ガス圧1.0kPa、投入後60秒後に点火しました。

図3を見ると、最も小さな豆c)は温度上昇が早く、大きな豆は遅い。グラフの傾きが変わっているので、小さな豆はより多くの熱を吸収し、早く温度上昇が行われることがわかります。グラフの傾きは一般にROR(Rate of Rise)と呼ばれ、1分間あたりの温度上昇(℃/min)で表します。

以上のように小さな豆はRORが大きく、温度上昇が早い。
これが「火の通りが早い」と呼ばれる所以であると考えられます。

しかし、この表現は正しくはないです。豆の内部を調べたものではなく、温度上昇(ROR)が早いことによるもので、誤解を招くので用いるべきではないと考えます。
いずれにしても、豆のサイズにより加熱特性が変わることは事実です。

2)いろいろな豆のサイズと加熱特性

上記の3種の豆を含めた12種の豆の大きさの違いについて調べました。12種類の100g中の豆の個数を図4に、それを元にした1個あたりの重さを図5に示します。

図5では、⑫のプレミアムショコラ(ブラジル産)を1として、相対値での豆の重さにしてあります。①が最も小さく、⑩が最も大きいです。その差は1.7倍程度にもなります。

表1のAに、上記の豆の産地と精製処理、B列に1個あたりの重さを記します。

産地はアフリカ・アジア・中南米と広く、精製処理もナチュラル、ウォッシュド、スマトラ式に加え、マウンテンウォーター式デカフェ処理も含みます。

上記12種の焙煎の加熱特性を図6に示します。加熱特性として、焙煎開始後5.5min後のRORを用いました。

焙煎条件は図3と同一で、250gの生豆を100℃で投入し、60秒後にガス圧1.0kPaで点火し、5.5分時点のRORの値を用いました。RORが大きいほど、温度上昇が早く、熱の吸収がよいことを示します。
RORの最小は9.8℃/minで、最大値は12.1℃/minで、約20%程度の差があります。

豆の大きさとRORの関係について考察をします。
表1における1個の豆の重さVと、RORの関係を図7に示します。

一個の豆の重さが重いほど、RORは小さくなります。
図2を見ると、豆の外観上の大きさと、20g中に含まれる豆の数は対応しています。すなわち、形が小さな豆は含まれる数が多いということです。これは豆の種類による密度の変化が小さいことを表します。密度に変化がないとすれば、軽い豆は形が小さな豆と考えてよいです。

図7では投入量が250gとすべて同じで加熱条件も同じであるにもかかわらず、形の大きさにより豆の温度上昇が異なり、小さな豆ほど加熱されやすいことを示しています。1個の豆の体積は異なるが、合計重量は250gと共通であるにもかかわらず、豆の大きさで加熱特性が異なるのは熱の吸収割合が異なるためと考えられます。

豆は外部からの熱吸収で温度が上がります。熱吸収は表面で行われるので、同じ体積でも表面積が異なれば熱の吸収は異なり、温度上昇も異なります。
わかりやすくするため、図8に2次元で示します。

同じ面積であっても1個のままと、それを1/4のサイズにして4個としたものでは外周が2倍異なります。外周から熱が吸収されるので、熱を吸収する部分が2倍異なることになります。

豆の密度が豆の種類によらず一定と仮定した場合、250g中にしめる表面積の相対値を表1のB列でSとして示します。
⑫のプレミアムショコラを基準として表します。簡単のため、形状は球形として計算しした。
同一重量であっても、小さな豆は個数が多くなり、表面積の占める割合が多くなります。
最も小さな豆①は1.11と最も大きく、最も大きな豆⑩は0.92と最も小さい。小さな豆と大きな豆では表面積の割合が20%近く異なるります。これは、熱の吸収効率の差になり、温度上昇の差となっているものと考えられます。

図9に、表面積とRORの関係を示します。

精製方式はナチュラル、ウォッシュド、スマトラ、デカフェ(マウンテンウォーター)と異なるが、表面積でRORが決まっていることがわかります。
一般に、精製方式が異なると含有水分も異なります。
今回の結果から、焙煎の加熱においては、含有水分よりも豆のサイズが最も大きなパラメーターであることがわかります。

以上から、小さな豆は表面積の占める割合が多くなるため、熱の吸収が早く、RORが大きくなるといえます。

 焙煎プロセスへ要求

豆の大きさに対するプロセスの対応法。
業務で焙煎を行う場合、多種多様な豆の焙煎を行う必要があります。
小さな豆は熱の吸収が早く、RORが大きくなる傾向にあるため、加熱に際してガス圧の調整が必要になります。ニュークロップなど水分値が異なる場合よりも、サイズによる寄与が最も大きくなります。

したがって、種類の異なる豆に対しては、表面積を元に火力調整を行えば、安定した焙煎が可能になると考えられます。
手順は、まずサイズを調べて、そのサイズに合った火力に補正すればよいといえます。

図10に、豆の大きさに応じてガス圧補正を行った焙煎のROR(120℃時点)を示します。

横軸はブラジル豆100gの表面積を1とした場合の用いた豆100gの表面積(x)です。グラフの右縦軸は横軸のxに対して、焙煎で使用したガス圧です。
表面積xに対してガス圧yを y==1.1 X-1.5   で補正を行いました。
この補正式は、用いた装置特有のものであるため、異なる装置では異なる式になります。

図10に示すとおり、ガス圧の補正を行うことでRORは、11±0.5℃/minの範囲に収まり、小さな豆による過加熱を防ぐことができ、安定した焙煎が可能になります。

コーヒーの焙煎プロセスを理解するため、豆の大きさが焙煎に与える影響を調べました。一般に言われる「小さな豆は火が通りやすい」という現象は、「小さなまめは温度上昇が早い」という現象を表すものと言えます。同一重量でも、小さな豆は温度上昇が早いです。これは体積に対して表面積の占める割合が大きくなるため、熱の吸収がよいためです。豆の精製処理によらず、豆のサイズが最も大きな寄与を示します。焙煎に際しては豆の大きさを計測し、それに応じたガス圧に補正することで、豆の種類によらず一定のRORを達成できることがわかりました。

素人の長い報告をここまで読んでくださりありがとうございました。
本研究に興味がある方がいらっしゃればご連絡いただけるとありがたいです。

1)小堀 勇,ロースターズレポート3._半熱風焙煎機による焙煎の進行の観察 ,(2024年1月ホームページ 自家焙煎 KOBORI)
2)中 林 敏 郎,焙煎によるコーヒー豆組織の変化,Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi Vol. 33, No. 11, 779~782 (1986)3)旦部 幸博,コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか,講談社,2016
3)旦部 幸博,コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか,講談社,2016