ロースターズレポートⅦ_コーヒー焙煎における生豆の大きさの影響~まとめ, The effect of green bean size on coffee roasting - Summary

コーヒー焙煎における生豆の大きさの影響のまとめです。参考にどうぞ。
なお、本報告はリンクはご自由で構いませんが、無断転載は禁止です。必ずご一報お願いいたします。

コーヒーの焙煎で、「小さな豆は火が通りやすい」とよく言われます。
実際に、筆者の経験でも小さな豆は早く温度上昇してしまう経験をしています。
このため、過去の焙煎データを整理して、豆の大きさが焙煎に与える影響を調べました。
(参考文献1,2)

本報告では上記の結果をもとに、実際に焙煎を行う際の注意事項としてまとめたものです。参考になれば幸いです。詳細は参考文献(1,2)を参照願います。

・豆の大きさ

代表的な豆の大きさの違いを図1に示します。実際に焙煎した豆だけでも大きさの違いは以下の幅があります。

 ・ブラジル産の豆を1とする。
 ・最小 0.74(イリガチェフェ)
 ・最大 1.30(マンデリン)

密度が同じとすると、一個の豆の体積も同じぐらいの差があり、約1.7倍です。
世の中にはこれ以下、これ以上のサイズも存在します。

小さな豆と大きな豆では、焙煎の際に以下の相違がありました。

A)温度上昇の違い(図2)

同一量の豆を同じガス圧で加熱した場合に、小さな豆ほど温度上昇が速いです。
理由として、小さな豆は表面積の占める割合が大きいため、熱の吸収が良いです。このため温度上昇が早くなります

B)1ハゼ温度が異なる。(図3)

小さな豆ほど、1ハゼの温度が高くなります。
これは、今回初めて分かったことで、多くの種類の豆を焙煎した結果、明らかな相関がみられました。
一見、考えにくいことですが、1ハゼが起こるメカニズムを考えると妥当なことです。(参考文献3)

焙煎では、豆が加熱され細胞は膨張します。個々の細胞が一斉に膨張するために内部に応力が蓄積します。
加熱が進み、膨張も進み、内部応力もどんどん蓄積していきます。そして内部応力がある臨界値を超えると、音を立てて内部に亀裂が生じて応力の開放が起こります。これが1ハゼです。

上記のメカニズムに基づくと、豆のサイズでハゼ温度が異なる理由は理解できます。

1個の細胞の膨張が同じでも、大きな豆は多くの細胞が集合しているため、より大きな内部応力が蓄積します。
逆に、小さな豆は応力が蓄積しにくいです。このため、小さな豆は高い温度でハゼが生じると考えられます。
従来の考えでは、ハゼとは細胞内部の蒸気圧が高まり風船が爆発するような現象で語られてきました。しかしこれは誤った解釈と思われます。そのような単純な解釈では今回の事例は説明が困難なのです。(参考文献3)

上記のように、豆の大きさが異なると温度上昇率、ハゼ温度に影響が表れます。

A)ガス圧調整なし

図4a)に、大、中、小の豆を同じガス圧で焙煎したときの、温度上昇、ハゼの起こる温度のイメージを示します。

・小さな豆

小さな豆は、早く温度上昇し、高い温度でハゼが起こります。
このため、ハゼが起こってから、狙いの煎り止め温度に達する時間が非常に短くなってしまいます。

・大きな豆

大きな豆は、温度上昇が緩やかで、低い温度でハゼが起こります。
このため、ハゼが起こってから、狙いの煎り止め温度に達するまでの時間は長くなります。

B)ガス圧調整あり

小さな豆の温度上昇を低く抑えるには、加熱速度を遅くすればよいです。ガス加熱の場合はガス圧を調整すればよいです。
豆のサイズに合わせてガス圧を調整することで、温度上昇はコントロールできます。
その時のイメージを図4b)に示します。

ここで、温度上昇が同じになっても、ハゼの温度は変わらず、小さな豆は高くなります。
この点を留意した焙煎が必要になります。

小さな豆の煎り止め

図4(b)のように、豆のサイズに合わせてガス圧を調整し、温度上昇をそろえても、小さな豆はハゼが起きてから煎り止めまでの時間は短くなる傾向にあります。

煎り止めのタイミングを決めるために、表示温度のみで決められれば、特に不具合は生じません。
しかし、焙煎機の表示温度は、様々な環境で変化しやすいです。例えば気温、焙煎機の暖気、蓄熱状態、生豆の投入量などです。(参考文献4) 
煎り止め温度の数℃の差が、ローストレベルの差になります。
したがって、狙いの焙煎度合いに煎り止めタイミングを合わせるには、表示温度以外に豆の色、しわの伸び、ハゼ音を総合的にとらえて判断することが肝要です。

このうちハゼ音は、小さな豆は高い温度で発生する傾向にあります。ハゼからの経過時間を煎り止めタイミングの目安にする場合には、小さな豆は煎り止め時間が遅れる傾向になってしまいます。
このことを回避するには、中煎りにする場合を例にすると、次のようにすればよいと思われます。

中型の豆では1ハゼが完全に終わってから煎り止めとするのに対して、小型の豆ではハゼが完全には終わらず、ピークを過ぎたあたりで煎り止めにするなど、短めの時間に補正します。どの程度補正するかはデータを蓄積するしかありませんが、温度表示も参考にします。

このように、1ハゼからの時間(デベロップタイム)のみで煎り止めを判断していたのでは、小さな豆はオーバーローストになりやすいです。
以上が、「小さな豆は火が通りやすい」ことの意味であると考えられます。

「小さな豆は火が通りやすい」ので、以下の点を注意する必要があります
・ガス圧を下げて温度上昇の増加を抑える
・一ハゼが起こったら(ほかのサイズの豆よりも)早めに煎り止めする。
・煎り上げは温度表示を重視する 。

素人の長い報告をここまで読んでくださりありがとうございました。
本研究に興味がある方がいらっしゃればご連絡いただけるとありがたいです。

1)小堀 勇,ロースターズレポートⅥ_コーヒー焙煎における生豆の大きさの影響② ,(2024年7月 ホームページ 自家焙煎 KOBORI)
2)小堀 勇,ロースターズレポートⅤ_コーヒー焙煎における生豆の大きさの影響① ,(2024年7月 ホームページ 自家焙煎 KOBORI)
3)小堀 勇,ロースターズレポートⅣ_ハゼとは何か?,(2024年3月 ホームページ 自家焙煎 KOBORI)
4)小堀 勇,ロースターズレポートⅡ_富士ローヤル1kg焙煎機の特性~投入量と豆温度の関係,(2023年12月 ホームページ 自家焙煎 KOBORI)
5)中 林 敏 郎,焙煎によるコーヒー豆組織の変化,Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi Vol. 33, No. 11, 779~782 (1986)
6)旦部 幸博,コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか,講談社,2016