ロースターズレポートⅥ_コーヒー焙煎における生豆の大きさの影響②,_Effect of green bean size on coffee roasting②,

コーヒー焙煎における生豆の大きさがハゼ温度に与える影響を調べました。
そして、ハゼに関する考察を重ねました。参考にどうぞ。
なお、本報告はリンクはご自由で構いませんが、無断転載は禁止です。必ずご一報お願いいたします。

コーヒーの焙煎を安定に行い、さらに味の変化を狙い通りに制御するには焙煎プロセスの深い理解が必要です。
コーヒーの焙煎に関して多くの先人たちが研究しているので、参考になる文献も多いが未知の部分も多いです。特に焙煎プロセスは個々の焙煎機や環境により大きく異なります。
装置や火力、環境温度により焙煎は大きく変動しやすいため、プロセスの理解には実際に使用している装置で各種の検討をする必要があります。

投入する生豆の量が同じで、同一の焙煎条件でも、生豆の種類が異なると温度上昇やハゼの温度が変わることが経験的に知られています。

前回のロースターズレポートでは、生豆のサイズによる焙煎の加熱の変化について報告しました。
同じ投入量、ガス圧であっても、豆のサイズが小さいと、温度上昇が早くなることがわかりました。合計の重量が同じであっても、小さな豆は含まれる数が多いため、表面積の割合が増えます。熱は表面から吸収されるため、小さな豆は熱の吸収がよく、結果として温度上昇が早くなると考察しました。
 
今回は、ハゼ温度について、豆の大きさが変わった場合の影響を調べました。過去の記録を整理してまとめたので報告します。

生豆が異なると焙煎プロセスがどのように変わるのか?
同一の焙煎条件で焙煎を行った過去のデータを整理して考察を行い、豆の大きさによる焙煎への影響を把握し、焙煎プロセスの理解につなげる。1ハゼ温度に着目する。

・焙煎条件

参照した過去の焙煎データは、以下の条件で実施したデータを元にしています。

・焙煎機:富士ローヤル社 半熱風焙煎機 R101 LPガス
・焙煎条件:投入量250g, 投入温度 100℃, ガス圧1.0kPa(投入後60秒で着火),ダンパー開度5
・測定値:豆温度の測定は、上記の焙煎機に標準で装着されている熱電対の表示です。(図1)

焙煎ドラム内に熱電対があり、ドラム内の豆が熱電対に触れた温度を計測。

実測データ

データの詳細は、参考文献(ロースターズレポートⅤ_加熱特性)でのデータに準じた内容で、今回はそのうちの1ハゼ温度のみに着目したものです。

1)生豆の大きさと1ハゼ温度

・豆のサイズ

12種類の100g中の豆の個数を元にした1個あたりの重さと1ハゼ開始温度実測値を表1に示します。

図2には、⑫のプレミアムショコラ(ブラジル産)を1として、相対値での豆の重さを表します。
①が最も小さく、⑩が最も大きい。その差は1.7倍程度にもなります。
表1のAに、上記の豆の産地と精製処理、B列に1個あたりの重さを記します。
産地は、アフリカ、アジア、中南米と広く、 精製処理もナチュラル、ウォッシュド、スマトラ式に加え、マウンテンウォーター式デカフェ処理も含んでいます。

1ハゼ温度

上記12種の焙煎を行いました。

焙煎条件はすべて同一で、250gの生豆を100℃で投入し、60秒後にガス圧1.0kPaで点火。
その後、焙煎が進み、豆が色ついて音が発せられて1ハゼが起こります。
1ハゼの開始は3回目のハゼ音を確認したとき、その時の温度を1ハゼ開始温度としました。

このときの豆種類による1ハゼの開始温度を図3に示します。
豆によるハゼ温度はまちまちであることがわかります。最高と最低では。約7℃程度もあり、結構違います。窯出し時に7℃異なると焙煎度合いはシティーローストからフルシティーローストぐらいの差が生まれる温度差です。

図4に、豆の大きさと1ハゼ温度の関係を示します。大きな豆はハゼ温度が低く、小さな豆は温度が高くなり、明確に相関があることがわかります。
イメージでは、小さな豆は温度上昇が早いので、低い温度で早くハゼると予想していましたが、結果は逆です。

図4のように豆の大きさがなぜハゼ温度と関係するのでしょうか?この要因について考察します。
 
そもそも、ハゼとは何か?なぜ起こるのか?
その要因を筆者は(参考文献ロースターズレポート4 ハゼとは何か)で考察しました。

コーヒー豆は加熱に伴い膨張します。個々の細胞が膨張し、形を維持するため内部応力が増加します。そして、ある一定の応力に達すると内部に亀裂が生じて、応力の解放がおこります。亀裂を生じる際に発生する音がハゼ音であり、応力を解放する現象こそがハゼであると考察しました。

ハゼとは、地震による大断層形成に似た現象で似ていると思われます。このことを考えると、豆の大きさが変わると、蓄積応力は変わるので、ハゼの温度が変わることは至極当然のことと考えられます。

図5に、ハゼ前後での豆の大きさの変化を示します。(参考文献1より引用)
図6には、大きな豆と小さな豆の場合の、応力発生の模式図を示します。

加熱により、一個の細胞が仮に20%大きさが大きくなるとします。
a)の小さな豆では、表面に13個の細胞があるとし、個々の 細胞が20%大きくなるとします。両端が固定されている場合、個々の細胞の変化を吸収するには上方向に湾曲して、その変化を吸収する必要があります。

b)の場合、豆が大きいため、細胞の数は20個あります。細胞が20%大きくなると、その増加分を吸収するにはa)より多くの湾曲量が必要になります。

つまり、大きな豆ほど、同じ温度に加熱した場合には、内部応力の絶対値は大きくなります。
細胞の膨張率は、加熱温度で決まるとすると、大きな豆は小さな豆よりも、低い温度で内部応力が増加します。内部応力が増加し、ある臨界点に達すると、亀裂が生じハゼ音が発生します。

このように、豆のサイズが大きいと、低い温度で内部応力が大きくなる傾向になります。
したがって、大きな豆ほど低い温度でハゼが起こるものと考えられます。

小さな豆はすぐに内部に熱が伝わりやすいイメージがあるので、ハゼもすぐに起こるととらえがちですが、実際はその逆のようです。 ハゼとは、ガスの爆発などではなく、体積膨張により蓄積した内部応力の解放現象であることを考えると、自然に理解ができます。

 焙煎プロセスへ要求

豆の大きさに対するプロセスの対応法。

実際に業務で焙煎を行う場合には、豆の大きさを考慮した焙煎を行う必要があります。

 具体的には、ハゼを基準にして、煎り止めを判断するには、豆の大きさによるハゼ温度上昇を念頭に入れる必要があります。
 
 小さな豆は、大きな豆に比べ、ハゼ温度は高い傾向にあることを述べました。同じ焙煎度に仕上げる場合、小さな豆は、1ハゼが始まってから、早めに煎り止めるとよい結果が得られると思われます。 たとえば、浅煎りを目指す場合、中型の豆では1ハゼが100%完了して窯出しするのに対して、小型の豆では1ハゼがピークの時点で窯出しするなどとなります。

このようにハゼが始まってからの窯出しタイミングは、豆の大きさにより調整する必要があります。

 豆温度を基準にすれば、その様な考慮は不要であると考えられます。しかし、現場では、表示される豆温度自体が環境や投入量で変わってしまうことがあります。焙煎機全体の暖まり具合も表示温度に影響を与え、常に一定とは限りません。
豆サイズによる窯出しタイミングの調整は現場では有用な手法と考えられます。

コーヒーの焙煎プロセスを理解するため、豆の大きさがハゼ温度に与える影響を調べました。
大きな豆は小さな豆に比べて、ハゼ温度が最大7℃低くなることが判明しました。

加熱で膨張した豆は、小さな豆より大きな豆の方が内部応力の蓄積は大きくなります。ハゼとは内部応力の解放に伴うクラック発生と音であると考えると、上記の結果は説明がつきます。

今回の結果は、ハゼに対するメカニズムを支持結果であると考えられます。 ハゼという現象はロースターにとって非常に重要な現象ですが、正確な理解がなされていません。今回の結果を通じてハゼに関する議論が活発になれば幸いです。

素人の長い報告をここまで読んでくださりありがとうございました。
本研究に興味がある方がいらっしゃればご連絡いただけるとありがたいです。

1)小堀 勇,ロースターズレポートⅣ._ハゼとは何か ,(2024年3月 ホームページ 自家焙煎 KOBORI)
2)中 林 敏 郎,焙煎によるコーヒー豆組織の変化,Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi Vol. 33, No. 11, 779~782 (1986)3)旦部 幸博,コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか,講談社,2016
3)旦部 幸博,コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか,講談社,2016
4)小堀 勇,ロースターズレポートⅤ._豆の大きさが焙煎に与え利影響① ,(2024年7月 ホームページ 自家焙煎 KOBORI)