ロースターズレポートⅢ_半熱風焙煎機による焙煎の進行の観察,重量変化による定量評価 Observing the progress of roasting using a semi-hot air roaster

半熱風焙煎機による焙煎の進行の観察しました。参考にどうぞ。
なお、本報告はリンクはご自由で構いませんが、無断転載は禁止です。必ずご一報お願いいたします。

概要

コーヒーの焙煎プロセスは見た目と想像で語られる事が多いです。
このため、重量変化と温度上昇を測定することによって、焙煎プロセスを定量的に考察しました。
  
加熱に伴う豆の重量変化のカーブから、3つの領域より成り立っていました。 
①水分蒸発:水分の蒸発以外に豆の内部組織が変化しており、その後の化学変化や風味特性に重要な役割を果たしている可能性が考えられました。
②1ハゼ:発熱反応の結果起こります。大きなハゼ音を伴います
ハゼが始まる前には、生豆が含有している水分はすでに完全に蒸発していました。ハゼが水分やガスの蒸発による爆発現象ではないことが判明しました。
③2ハゼ:発熱反応の結果起こります。発熱は1ハゼよりも激しいため、豆温度の急上昇を起こし急速に焙煎が進行します。
火力の制御が重要になります

従来、ハゼはコーヒー豆の細胞内部でガスの爆発や水分による破裂によるものと考えられていました。しかし、これは誤ったモデルであることがわかりました。
焙煎の制御はハゼを基準にして考えます。もっとも重要な現象であるにもかかわらず正確な理解がなされていません。今後、メカニズムの解明に取り組みたいと思います。

コーヒーの焙煎を安定に行い味を狙い通りに制御するには焙煎プロセスの深い理解が必要になります。
コーヒーの焙煎に関して多くの先人たちが研究しているので、参考になる文献も多いですが未知の部分も多いです。特に焙煎プロセスは個々の焙煎機や環境により大きく異なります。装置や火力、環境温度により焙煎は大きく変動しやすいため、プロセスの理解には実際に使用している装置で各種の検討をする必要があります。

今回の目的はベストな焙煎を行うことではなく、用いている装置と環境で、実際の焙煎プロセスを調べることです。より良い焙煎のプロファイルの構築に必要です。
一般に豆温度の時間変化を焙煎プロファイルとして用いることが多いです。しかし焙煎は化学反応なので、時間よりも温度のほうが重要です。評価については想像ではなく定量的な数値が必要です。 定量的に焙煎を評価する手法としては、焙煎前後のコーヒー豆の重量変化を測定する方法があります。

この手法は同一品種、同一ロットのコーヒー生豆を用いる場合には焙煎度合いを正確にあらわすことができ、しかも簡便です。(参考文献1)
豆の温度と焙煎の進行を定量的に調べた例として中林さんの報告があります。(参考文献2)。
投入量30Kgの大型熱風焙煎機を用いた研究で、焙煎時間と温度、豆の重量変化、色変化の関係が調べられています。温度とともに重量は減少し、重量変化から水分の揮発状況も述べられており、焙煎プロセスの一般的な理解を得るには大変参考になります。
上記の情報を参考にして業務で使用している1kg用の小型半熱風焙煎機(名称:R101)の焙煎プロセスを定量評価したので、その手法と結果を報告します。 

業務で使用している焙煎機にて焙煎プロセスの温度依存性を定量データにより把握する。また、コーヒー生豆の加熱プロセスを観察する。両者を合わせて焙煎プロセスの全体を把握する。

実験の手法と使用機器の詳細は以下の通りです。

・焙煎プロセスの評価方法の概要

1バッチにつき250gの生豆を焙煎機に投入し、ある温度T℃で取り出します。
この時に焙煎前後の重量比を測定してその重量比をT℃における焙煎度とします。すべて同一品種、同一ロットの生豆を用います。

 投入温度と加熱プロファイルはすべて同一条件で、取り出し温度のみを、110℃、125℃、140℃、155℃、170℃、185℃、198℃、210℃と変えます。トータルで8バッチの焙煎です。
各取り出し温度での焙煎度をプロットすることで、温度による焙煎中の進み具合を定量的に把握することができます。
重量測定以外に、色彩計により色味を測定することで業界一般に用いられるL値の測定も行います。

・外観と内部変化の評価方法の概要 

焙煎豆は加熱による温度上昇に伴い、1ハゼや2ハゼを経ます。上記①の豆をカッターで切断し断面を観察することで、ハゼや加熱での内部の変化を調べました。

・使用機器と焙煎に用いたコーヒー豆の説明

焙煎評価に用いたコーヒー豆と焙煎機、評価機材は以下の通りです。

・コーヒー豆:ブラジル-サントスNO2(2022年)、水分値9.4-10.4wt%
・焙煎機:富士ローヤル社 半熱風焙煎機 R101 LPガス
・焙煎条件:投入量250g,投入温度 100℃, ガス圧0.8kPa(昇温速度約9~10℃/min),ダンパー開度5
・色彩評価:同一の粒度に粉砕して日本電色工業株式会社 色彩計SE 6000を用いて、L*a*b*を測定
・粉砕機 : Retsch ZM200、粒度(目視0.2-0.5mm)

補足)今回の焙煎条件は、ガス圧が一定で実験専用です。取り出しタイミングを合わせれば、シティーロースト~フルシティーローストの豆として十分においしく飲め、実際の焙煎条件に近い条件です。  

得られた結果は以下の通りです。

・加熱の時間プロファイル

図1に今回の焙煎実験の加熱状況を示します。

取り出し温度を、110℃、125℃、140℃、155℃、170℃、185℃、198℃、210℃と変えた計8バッチの温度とROR(Rate of Rise)の時間変化です。異なるバッチでも取り出し温度まではすべて同一の温度上昇カーブとRORの時間変化を再現しています。加熱状況のバッチ間ばらつきは小さいと思われます。

投入温度は100℃、投入後60秒後にガスを点火し、ガス圧は一定で0.8kPaで統一してあります。 

・重量変化及び色彩変化

加熱過程における重量の減少割合、ROR、L*値を図2a),b)に示します。

重量の減少割合は温度による焙煎進行を可視化したもので、独自にローストカーブと呼ぶことにします。

*減少割合=1 - (加熱後の豆重量)/(加熱前の豆重量)

a)はローストカーブに加えRORの横軸を温度にして、1ハゼ、2ハゼの開始と終了温度記載。
b)はローストカーブに加え、色彩評価による測定値L*を併記しました。

・外観と断面形状

図3に、各温度の豆の写真を示します。a)は全体、b)は断面、c)はb)の一部を拡大したものです。
断面は豆の中央をカッターで切って撮影しました。

 各結果の説明

 図2から、焙煎プロセスは大きく3つの領域Ⅰ、Ⅱ、Ⅲにわけられます。

・領域Ⅰ(95-150℃)

95℃から重量減少が始まることから、領域Ⅰは水分の蒸発がメインです。水分量を10%とすると、160℃ですべての水分は蒸発し、1ハゼ開始時にはすべての水分は蒸発しています。
図2b)を見ると、L値の変化は140℃以降で始まります。150℃以降がいわゆるメイラード反応に相当すると思われ、140-160℃は水分蒸発とメイラード反応が同時進行しています。
RORの変化に着目すると、95-120℃まではRORは大きく、その後徐々に減少していきます。これは水分の蒸発とともに熱伝導率が低下するためと考えられます。150℃までは大きな変化はないですが、140℃付近で一度減少し再び回復しています。加熱のガス圧は変化せずにRORが減少して再び戻るのは吸熱を伴う何らかの反応が起こっているためです。したがって、140℃で吸熱を伴った化学反応が起こっています。

図3b)の断面写真を見ると、生豆の特徴として中央に黒っぽいラインがみえます。この部分がどのような成分を有するかは不明ですが、125℃までは存在しています。140℃になると消えます。125℃と140℃ではL*変化は少ないですが、内部の状況は明確な差分があります。

領域Ⅰの状況

・95℃ - 125℃  水分蒸発
・125℃ - 140℃  水分蒸発+化学変化1(黒いラインの消失に関連するもの)
・140℃ - 150℃  水分蒸発+化学変化2 (140℃で吸熱反応,メイラード反応開始) 

・領域Ⅱ(150-190℃)

図2 a)を見ると、RORは150℃から再び上昇に転じて1ハゼ開始(162℃)時にピークをつけます。加熱のガス圧は変化せずにRORが上昇しているで内部で発熱を伴う反応が起こっています。初期の水分は160℃で消失しているので、その後の重量減少は反応生成物の揮発によるものです。

温度上昇に対する重量減少の傾きは領域Ⅰとは異なり、急激になります。水分蒸発とは異なるメカニズムが起きていて、発熱反応によるものと考えられます。
領域Ⅰよりも領域Ⅱでは、温度上昇による重量減少は急激です。発熱反応によりL*は大きく変化し始めます。そしてRORは再び低下し、1ハゼは終了します。
1ハゼ終了後に加熱を続けると再びRORの上昇が始まります。第2の発熱反応の始まりです。

図3 b),c)を見ると155℃以上では組織のスポンジ化がみられます。細胞内での発熱反応を反映したものと考えられます。スポンジ化は体積の膨張を伴うことが知られています(参考文献2)。

1ハゼは低めで大きな音が間隔をおき発生します。155℃、170℃の写真がハゼの前後に相当し、ハゼにより亀裂が生じています。125℃→140℃で消失した黒い部分と同じ位置に亀裂生じていることが特徴的です。
断面の着色を見ると、加熱による着色一様に進み、むらは見られないです。加熱スピードが適切であったためと考えられる。

領域Ⅱの状況

・150℃~160℃ 発熱反応開始 組織のスポンジ化
・160℃~175℃ 発熱反応ピーク、豆内部に大きな亀裂が生じる=1ハゼ発生
・175℃~180℃ 発熱反応終了。1ハゼ終了
・180℃~190℃ 第2発熱反応開始

・領域Ⅲ(190-210℃)

RORは170℃以降で一度低下して180℃から再び上昇します。190℃で2ハゼが始まると上昇速度はやや低下して引き続き上昇を続けます。
温度に対する減少割合は領域Ⅱよりもさらに急になります。1ハゼとは異なる発熱反応が生じて、焙煎進行が非常に早くなることがわかります。
 ROR変化を見ると、2ハゼ前後の加熱反応は1ハゼの時よりも強いカロリーを発生していることを示します。

L*値の変化は緩やかになる一方で、重量減少は急激になるので2ハゼ以降の焙煎度合いの評価は重量減少で行ったほうが精度が高くなります。 あるいはL*値(可視光380-760nmでの測定)より赤外線の吸収のほうが適しているのかもしれない。

図4b)、 図4c)の断面を見ると185℃以上ではスポンジ状態の穴が大きくなっています。2ハゼ以降は発熱反応が急激に進行してガスとなって蒸発しスポンジの穴が大きくなります。焙煎中の白煙も非常に多くなります。1ハゼのように大きな音ではなく、ピチピチと連続する細かな音です。

1ハゼとは違い、音の大きさや周期は豆の種類の差は小さいです。燃焼反応で発生した油が多く生成され脆くなった隔壁から流れ出て全体が油でおおわれます。

領域Ⅲの状況

・190℃~210℃ 発熱反応の量やや減少するが続く。2ハゼの音が始まり、終了する。

以降は炭化は進行

得られた結果をもとに各過程の考察を行いました。

① 水抜きとは何でしょうか?

投入初期の加熱に関して一般に言われている水抜きの過程とは、図2の140℃までのL値が変化しない温度までの工程と思われます。
図3bを見ると140℃においては全体が薄茶色になると同時に、125℃まで存在していた黒い層が消失しています。 一様に消失する現象は豆の内部で何らかの反応が起こっていると考えられます。
この層の正体と役割はこれから研究が必要ですが、水分が集中する層かもしれません。あるいは他とは異なった成分を多く含する異種領域で、その物質が加熱で全域に拡散や反応で広がったのかもしれません。水分集中層なら、内部にある水分が外部に出るまで拡散する必要があり、異種層であれば物質はある程度の移動に伴う時間が必要となります。

この必要な時間が水抜きと呼ばれる加熱工程に相当すると考えられます。140℃までの時間を短縮するには限界はあり、それを超えると中に水分が残る生焼けなどといわれる現象と関連しているのかもしれません。
一方で、外部が焦げないレベルで、加熱速度は速いほど風味がよくなる場合も多いです。
いずれにしても、140℃以下の加熱過程はただの水分蒸発だけではなく、焙煎豆の風味に与える要素と思われます。

② ハゼとは何でしょうか?

ハゼは蒸発する水分の圧力で細胞壁が破壊する音といわれますが、それは正しくはありません。
今回の結果で重量減少を見ると、ハゼ開始時点ではすでに含有水分量は蒸発しきって、爆発を起こすような水分量は残っていません。 1ハゼでは、2ハゼのピチピチとした高周波の音に比べ間隔が開いて少ないです。
これは広い領域で生じている音と考えられ、写真で見られる豆全体に及ぶ亀裂が入るときに生じる音であると考えられます。亀裂が入る原因としては、1ハゼ前の発熱反応で個々の細胞が膨張し豆全体が膨らむことに原因と考えられます(参考文献2)。
膨張により豆全体に応力が蓄積し、限界に達して中央の特定箇所で亀裂が生じ応力を開放する音と考えるのが妥当です。

ところでハゼ音は加熱条件と豆の種類で大きく変わることは一般に知られています。
加熱不足の場合、単位時間当たりの反応量が少なく、膨張が緩やかに進み応力の蓄積が少ないためハゼ音は小さく少ないと考えられます。
豆の種類で異なる理由は発熱反応(150-160℃)の反応量が異なる場合と、応力開放までに累積できる応力の差の両者が考えられます。
系統的なデータはないですが、ブラジル豆やマンデリンなどは1ハゼ音が小さく、コロンビアやケニアの豆は大きいです。前者は1ハゼ前のROR上昇が少なく後者は大きい傾向にあります。
応力開放までに累積できる応力の差については、豆の硬さなどが関係すると思われますが、評価方法含めて今後の研究が必要です。 

③ 2ハゼとは何でしょうか? 

2ハゼに関しても蒸発する水分の圧力で細胞壁が破壊するといわれますが、間違いです。
そもそも蒸発すべき水分は残っていなくて、化学的にも大気圧で200℃を超えて水分は残らないと考えられます。

RORの変化から2ハゼでは発熱反応が起こっています。断面写真から、豆内部のバルク全体で起こっています。
1ハゼは1回目の燃焼での応力緩和で豆全体全域に連なる長いクラックが発生する現象です。2ハゼは2回目の燃焼の際に生じる体積膨張で、豆全体ではなく局所的なクラックです。2ハゼが起こると豆の表面の数ミリ以下の小さなクレーターができることはそのためと考えられます。

以上まとめると

3つの温度領域

領域Ⅰ

95℃から水分蒸発がはじまる。焙煎は95℃からは始まっている。
褐色化反応と同時に140℃以下の温度でも豆内部では反応は進んでいる。この反応過程が焙煎豆の風味に影響を与えている可能性がある。

領域Ⅱ

150℃から発熱を伴う反応が始まり、膨張が起こる。膨張に伴い豆内部に応力の蓄積が起こり応力を開放するために豆の広い領域にわたり、亀裂が入ります。これが1ハゼ音として観測されます。水蒸気の爆発に起因するものではない。水分の蒸発は1ハゼ前には終わっている。

領域Ⅲ

1ハゼが終わって、180℃から再び別の発熱反応が始まる。発熱は1ハゼ時よりもROR上昇が激しく急激な焙煎進行を伴う。これにより2ハゼが起こる。 焙煎中に豆は2回燃焼する。ハゼは燃焼により生じる亀裂音で爆発音ではない。2ハゼの際の燃焼は激しい。

よりよいコーヒー焙煎を行うには燃焼を精密に制御するのも必要があると思われます。

少しそれますが、燃焼や加熱の制御は火力だけで行うのではなく、加熱雰囲気についてもっと研究してもよいと思われます。雰囲気ガスをN2やCO2といった不活性ガスにする方法もありかもしれません。

加熱によるコーヒーの焙煎プロセスを用いている装置で定量的に調べました。
定量的に評価する手法としては焙煎中の各温度でのコーヒー豆をとりだし焙煎前後の重量変化とL*値の測定、豆の断面状態の観察を行いました。

焙煎過程は温度域で以下の三つの領域で成り立っていることがわかりました。

・領域Ⅰ:95℃-150℃

95℃から水分蒸発。褐色化反応は140℃以上で起こる。140℃以下の温度でも豆内部で反応は進む。この反応過程が焙煎豆の風味に影響を与えている可能性がある。

・領域Ⅱ:150℃-190℃

150℃から発熱を伴う反応が始まり膨張を始める。膨張に伴う内部応力で豆の広い領域にわたり、亀裂が入る。これが1ハゼ音となる。水分の蒸発による爆発音ではない。
1ハゼが終わった後に、180℃から第二の発熱反応が始まる。

・領域Ⅲ:190℃-210℃以降

180℃からの発熱は1ハゼ時よりも激しく急激な焙煎進行を伴う。これにより2ハゼが起こる。

コーヒー豆は燃えてる。内部から加熱され、1ハゼが第一燃焼、2ハゼは第二燃焼と呼べるかもしれない。

よりよいコーヒー焙煎を行うには、投入から140℃までの加熱過程、および2ハゼ前の激しい燃焼過程の制御が肝要になります。前者は、投入温度とガス圧、後者は1ハゼ終了後のガス圧調整で対応が可能と思われます。 

発熱反応で具体的にどのような成分が変化しているのかを調査する必要があります。
豆の内部と外部で温度差が生じることが想定されますが、加熱速度との関係も具体的に把握する必要があります。

素人の長い報告をここまで読んでくださりありがとうございました。
本研究に興味がある方がいらっしゃればご連絡いただけるとありがたいです。

1) 小堀 勇,ロースターズレポート1._焙煎豆の評価方法,L値と焙煎指数の関係 ,(2023年9月 ホームページ 自家焙煎 KOBORI)
2) 中 林 敏 郎,焙煎によるコーヒー豆組織の変化,Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi Vol. 33, No. 11, 779~782 (1986)